縮合型タンニン(プロシアニジン)の安定同位体標識モデル高分子を合成

掲載日2024.10.03
最新研究

農学部 森林科学科
教授 小藤田久義
木材化学

概要

岩手大学連合農学研究科ムン?ソンゼ院生、農学部小藤田久義教授らの研究グループは、安定同位体で標識された縮合型タンニン(プロシアニジン)の高分子モデル化合物の合成に成功しました。縮合型タンニンは、植物体内で二次代謝産物として生産される生体防御物質ですが、食品?医療の分野においても様々な有用機能を発揮するため、健康サプリメント等にも利用されています。
有機化学的に合成された縮合型タンニンモデル化合物は天然素材から抽出されたタンニンよりも純度が高く構造が単純であるため、代謝化学的研究を実施する上で試験用の標準物質として用いることができます。本研究では、縮合型タンニン合成高分子に安定同位体である??Cを位置選択的に導入するための合成法を確立しました。
本研究は、シュプリンガーが出版する木質科学分野に関する学術雑誌「Journal of Wood Science」に電子版で公開されました。

背景

縮合型タンニンはマツやスギなど針葉樹の樹皮に多量に含まれるポリフェノールの一種であり、同様の物質はプロシアニジンという名称でブドウ果実の皮?種子やカカオに含まれることが知られています。縮合型タンニンはタンパク質凝集能や抗酸化力を有しており、天然由来の機能性物質として皮なめし剤や酸化防止剤のみならず、サプリメントや家畜飼料などへの応用の可能性を秘めた物質として期待されています。しかし、縮合型タンニンは複雑に重合した高分子化合物であるため天然素材からの分離?精製が困難であり、研究用の標準物質を容易に得ることができないことが課題となっています。標準物質として利用できる縮合型タンニンを有機化学的に合成する方法はこれまでにもいくつか提案されていましたが、安定同位元素を用いて分子の一部を置き換えた標識高分子モデル化合物はこれまでに合成例がありませんでした。

アカマツの樹皮
スギの樹皮
縮合型タンニンの化学構造

研究内容と成果

本研究では??C標識酢酸または??C標識ジメチルホルムアミドを出発物質として、安定同位体で位置選択的に標識された2種の縮合型タンニン高分子を合成しました。得られた合成高分子は、各構成単位のC-4位またはC-2位が??Cで標識されていることが核磁気共鳴(NMR)スペクトル分析により確認されました。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により、各種モデル高分子は主に4量体から6量体構造で構成されていることが明らかになりました。スギ樹皮から得られた天然縮合型タンニンと合成されたタンニンモデル化合物の13C-NMRデータを比較すると、NMRシグナルパターンがほぼ同じであったことから、両者の化学構造は非常に類似していることが確認されました。さらに、天然の縮合型タンニンや非標識の合成高分子と比較して標識化合物にはC-4位および C-2位に由来する??Cシグナルがより高い強度で検出されたことから、安定同位体??Cによる標識がそれぞれ位置選択的に進行したことが明らかとなりました。

安定同位体標識縮合型タンニンモデル高分子の合成ステップ

今後の展開

本研究により合成されたモデル化合物は、縮合型タンニンの化学反応機構の解析や生体内での構造変換プロセスをモニタリングするのに役立ちます。特に酵素タンパク質の凝集作用による高等植物の生体防御機構や、天然界での微生物による生分解システム、機能性食品としての代謝における構造変化、反芻動物の呼気に含まれるメタン濃度への影響など、縮合型タンニンが関わる多くの生命現象を解明するためのツールとして役立てることができるものと期待されています。

掲載論文

題目:Synthesis of condensed tannin model compounds regioselectively labeled with a ??C-stable isotope.
著者:Moon, S.-J., Kawasaki, Y. and Kofujita, H.
誌名:Journal of Wood Science
DOI:10.1186/s10086-024-02156-y

本件に関する問い合わせ先

農学部 森林科学科
教授 小藤田久義
kofujita@iwate-u.ac.jp
019-621-6171