トルコに分布する肝蛭(かんてつ)類の種類と遺伝的多様性を解明

掲載日2025.07.10
最新研究

獣医学部
関 まどか
獣医寄生虫学

岩手大学獣医学部の関まどか准教授らの研究グループは、トルコに分布する肝蛭(かんてつ)類の種類と遺伝的多様性を解明しました。
人獣共通感染性の吸虫症である肝蛭症を引き起す肝蛭類にはFasciola hepatica、F. gigantica、両種の交雑子孫であるHybrid Fasciolaが知られています。肝蛭類は世界中に分布するため、どの種類がどこに分布するかを正確に知ることが重要です。また、F. hepaticaはトルコに隣接する肥沃な三日月地帯を起源とし、各地に分布を拡大したとされています。遺伝的多様性を解析することで、この仮説を検証することができます。本研究では、トルコにはF. hepaticaが分布すること、周辺諸国に比べて圧倒的に遺伝的多様性に富むことから、F. hepaticaの起源は肥沃な三日月地帯とする仮説が裏付けられることを示しました。今後、さらに解析地域を増やすことで、F. hepaticaの起源に関する仮説を詳細に検証することが期待されます。

画像参照:Infection, Genetics and Evolution Volume 133, September 2025

背景

人獣共通感染症である肝蛭症を引き起す肝蛭類にはFasciola hepatica、F. gigantica、両種の交雑子孫であるHybrid Fasciolaが知られています。世界中に分布し、人獣共通感染症である肝蛭症を引き起すため、どの種類がどこに分布しているかを正確に知ることが重要です。

研究内容

本研究ではトルコに分布する肝蛭の種類と遺伝的多様性の解明に取組みました。
私達の研究チームが開発した核DNAのfatty acid binding protein type I (FABP type I)遺伝子に基づく簡易診断法により、種類を正確に診断するとともに、ミトコンドリアDNAのNADH dehydrogenase subunit 1(nad1)遺伝子の塩基配列の解析により、遺伝的多様性を解析しました。

研究成果

トルコに分布する肝蛭種はF. hepaticaであることが判明しました。また、トルコのF. hepatica個体群は周辺諸国に比べて遺伝的多様性に富むことが明らかになり、F. hepaticaの起源が、トルコに隣接する肥沃な三日月地帯にあるとする仮説を支持する情報が得られました。

今後の展開

正確な分子識別マーカーであるFABP type I遺伝子を用いて各地域に分布する肝蛭種を正確に同定するとともに、肥沃な三日月地帯に分布する虫体の遺伝的多様性を解明することで、F. hepaticaの起源に関する仮説を証明することが期待されます。

掲載論文

題目:Accurate species discrimination of Fasciola hepatica from Türkiye based on the fatty acid binding protein type I (FABP type I) gene and phylogenetic analysis using mitochondrial DNA
著者:Figen Celik, Michiyo Tashiro, Sami Simsek, ?brahim Balkaya, Yukita Sato, Madoka Ichikawa-Seki
誌名:Infection, Genetics and Evolution
公表日:2025年6月11日

【用語解説】
?肝蛭類 主に反芻動物の肝臓に寄生する吸虫で肝蛭症を引き起す。ヒトにも感染する。

本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省 世界で活躍できる研究者育成プログラム総合支援事業 学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)「寄生虫症の診断?予防?治療法の開発」研究代表者:関 まどか